副社長と恋のような恋を
 今日の会議は、八月に発売されるカジュアルウォッチの販売促進会議だ。現在、ネットで先行予約受付をしているが、予想より売れ行きが悪い。そこで起爆剤になるものを販売日にぶつけようということになっている。

 広報、企画、営業などがそれぞれのプレゼンを始めた。

 SNSを駆使し、宣伝効果を上げる。それに付随して現在起用しているタレントを呼んでイベントを行う。これは広報や企画が出した案だった。

 営業は、アパレルメーカーとのコラボ。新たにコラボ商品は作らず、メーカーが現在売り出したい商品でトータルコーディネートをしてもらい、そこに腕時計も入れてもらうというものだ。

 そのアパレルメーカーは今回、うちでも起用しているタレントがイメージモデルとなっている。これならば、アパレルメーカー側に話を通しやすくなる。

 落合さんは、若干緊張しているようにも見えるが、滞りなく説明を終えた。

 すべてのプレゼンが終え、視線が副社長に集まる。副社長はタブレットを少し眺め、顔を上げた。その顔は少し微笑んでいる。誰もが、いい方向に進むと思った。

「ありきたりですね。まず、このカジュアルウォッチの購入者層はどこですか? 先行予約前は二十代の後半をターゲットにしていました。しかし、この先行予約の年齢層を見ると三十代後半から四十代が多い。これは仕事で使う時計とは別に、プライベートで使う時計としての購入が多いと考えるべきです。まず、そこから見直してください」
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