副社長と恋のような恋を
 副社長の声は比較的明るいトーンでありながら、語尾に鋭さがある。そして微笑みを崩さぬまま、そう言い切った。

「こちらが最初に想定していたところと違う購買層に反響があることは、よく起こることです。それに臨機応変に対応し、販売戦略を考えてください。現在、携帯電話、スマートフォンの普及により時計の売れ行きは落ちています。そのため、他社との差別化と購買層のニーズを見極める、これを忘れないでください」

 副社長は会議の進行役の人に視線を送った。会議はそこから終息に向かった。

 副社長の神の黒笑というのがなんなのかが、わかった気がした。整った顔で微笑みながら、厳しいことを言う。笑みを浮かべて黒いオーラをさりげなく混ぜる。そういうことをまとめて、神の黒笑と誰かが言ったことが広まったのだろう。

 会議は滞りなく終わり、副社長が会議室を出ると、誰もが肩の力を抜いた。

「厳しかった、今日の会議」

 落合さんは自分の周りを片付けながら言った。

「お疲れさまです。営業が伝えるべき点はしっかり押さえていましたし、改善点もはっきりしたんで、いい会議だったと思います」

「そうだね。広報の人と話があるから、酒井は先に戻っていいよ」

「はい、わかりました」
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