副社長と恋のような恋を
 本を副社長に返すと、副社長はそれを受け取りカバンにしまった。

「都築先生のこれからの変化が気になるから、過去の作品も読もうと思う」

 そう笑顔で言ってくれた。優しい人だな、と思った。きっと、都築麻衣と面と向かって会っていなければ、こんなふうには思ってくれなかっただろう。

「お待たせしました」

 ウェイターがサラダと一緒に赤ワインを持ってきた。

 副社長は慣れた手付きでテイスティングをする。副社長が軽く頷くと、ワインがグラスに注がれた。

 テイスティングをしている人を見るといつも思う。これではないという人はいるのだろうか。そんなことを考えているうちに、私のグラスにもワインが注がれた。

「乾杯でもする?」

「別に、私たち祝うようなことはなにも」

「あるよ。俺が君を見つけたこと」

「それは」

 私が言いよどむと、じゃあグラスはぶつけずに、お互いの目の高さにまで上げようと副社長が言った。

 その言葉に倣って、グラスを少し上へ上げた。

「美味しい。私、酸味が強いのは苦手なんですけど、これはまろやかで飲みやすいです」

「気に入ってもらえてよかった。ここのお店、いいでしょ。自分で作るのが面倒なときによく来るんだ」

 副社長はそう言って、赤ワインを美味しそうに飲んだ。
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