副社長と恋のような恋を
「そうですね。照明のセンスがいいですよね。落ち着きます」

「料理も美味しいから期待していいよ」

 サラダを食べながらワインを飲んでいると、白身魚のムニエルとパンが運ばれてきた。

「美味しそうですね、私、白身魚好きなんです」

「そう、ならよかった」

 柔らかな白身魚は口に入れるとほろほろと崩れていき、小さく刻まれた野菜が入ったソースと合わさり、淡白な味の魚が濃厚な味に変わった。それは赤ワインとよく合った。

「これも美味しいです」

「気に入ってくれてよかった。ねえ、答え合わせを始めてもいいかな?」

 そうだ。どうして私のペンネームがわかったのか。都築麻衣と酒井麻衣が同一人物だと気がついたのか。それを知るためにここに来たんだ。

「はい。お願いします」

「まず、君が言ったことをネットで調べたんだ。五年前にデビューした新人作家。新人賞受賞式の日を体調不良で欠席したこと。これで引っかかったのが三人いた。その中で、デビュー作が青春群像だったのは都築麻衣だけ。その後も高校生、中学生を主人公にした小説を中心に発表。恋愛小説は書いていない。これであの日出会った作家さんは都築麻衣だろうと思った。そのあと本を買ったよ」
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