副社長と恋のような恋を
「さて、本題に入っていいかな」

「本題、ですか?」

「そう本題。君と仕事の話がしたいんだ」

「仕事?」

 思わず聞き返してしまった。話の見当がまったくつかない。こうなると素直に話を聞くしかない。

「社長が主体になってデザインしているark(アーク)シリーズは知っているよね」

「はい」

 arkシリーズは社長が四年前に立ち上げたものだ。年一で新作を出している。そしてその企画チームを社長が自ら選ぶ。それはどの部署からでもあり得るため、みな一度はそのチームに選ばれてみたいと思うものだ。現実問題、選ばれる可能性はゼロに等しい。

「今年から俺が引き継ぐことになったんだ。そして、今年の企画デザインチームに、君も入ってもらいたい」

「え?」

 間抜けな声が出てしまった。副社長の顔を見れば、冗談でも嘘でもないことがわかる。

「私はただの営業事務です。選ばれる理由がないと思いますが」

「済まない、言葉が足りなかったね。都築先生に仕事を依頼しているんだ」

 副社長は私から目線を外さずに言った。私が考えていることを見抜こうとでもするように。

「どうして腕時計のデザインや販売に作家が必要なんですか?」

「arkが発売されるときは特設サイトを作っている。そこには必ず商品の魅力を伝えるキャッチコピーが載る。それを君に考えてもらいたいんだ」
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