副社長と恋のような恋を
「昨年までは誰が考えていたんですか?」

「そこは外部のコピーライターに頼んでいた。ただ、時計を知らない人に細かいニュアンスを伝えるのは難しい部分もあると思うんだ。だから社内の人間を使いたいと考えている」

 副社長が言いたいことはわかる。自分のイメージしているものを伝え、それがそのまま反映されてくることは少ない。そんなことができるのは一流のコピーライターだけだろう。

 しかし厳しい予算の中でコピーライターに充てられる金額は多くないはずだ。社内に作家がいたとなれば使わない手はない。

「企画チームに声をかけてくださりありがとうございます。でも、この話は断ることもできますよね。私は小説以外の仕事を受けるつもりはありません」

「そうか、残念だよ。友好的に話を進めたかったんだけど。なら、強引に話を進めるとしよう。君は作家であることを公表していない。でも俺はその事実を知っている。例えば知り合いに俺が話してしまったとする。その知り合いがSNSに書き込んでしまったりしたら。君はどうする?」

「副社長に口が軽いのは災いの元だということと、なんでもSNSに書き込む人とは親しくしないほうがいいと思いますと、忠告します」

 私が苛立ちながら答えると、副社長は声を押し殺しながら笑い出した。
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