副社長と恋のような恋を
三番目の夢
「あれ都築先生、今日は随分とおしゃれじゃありません?」

 今日は書類関係のことで出版社にきていた。私の予定のせいで、角田さんに土曜出勤をさせてしまった。もともと出勤する予定だったから気にしないでほしいと言われたけれど、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「そうですか」

 少し引きつった顔で答えてしまう。事実、おしゃれをしてきているからだ。

「もしかしてデートですか?」

「男友達と会う約束をしていて」

「男友達!」

 角田さんの声が裏返った。それほど驚かれることなのか。

 社内でコピーライトの仕事をすること、細かい経緯を省いて男友達のようなものができたことを話してから、私はため息が止まらなくなった。

「そのため息はなんですか? 嬉しさのため息ですか?」

「違います。後悔のため息? 不安のため息のほうが正しいかも」

 疑似恋愛できてラッキーなんて考えたけれど、あのバーでのことと、この前のレストランでのことが毎回起こるのかと思うと、胃が痛い。

「そんなに不安にならなくても。いいじゃないですか、イケメンのお友達なんて。私、嬉しいんですよ。今まで、小説に関することなら、先生自身が納得いけば文章にすぐ反映してくれましたけど。先生自身のプライベートな部分や感情に直結するようなことって、あまり積極的じゃありませんでしたから」
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