副社長と恋のような恋を
 それは耳が痛い。真実だからなおのこと痛い。

「私の持っている危機感が脳みそだけでなく感情のほうにまで浸食してきたんですよ。いい加減、デビュー作を超える小説を書きたいんです」

「その意気込みいいです。先生が気になることをどんどんやってみてください。先生はまだ二十六なんだから。若いってすごい特権なんですよ」

「そうですか? 角田さんのほうが、私より人生を謳歌しているように見えますけど」

「三十代だからですよ。いろんなことに肩肘張らずに生きる術を知ったから。二十代が持つ、人の目線や人の意見に右往左往する感性が抜け落ちたから楽になったんです」

 私もあと四年で三十代に突入する。子供のころ思っていた二十代はもっと大人だった。三十代になって、やっとあのころ想像していた大人に追いつくのだろうか。

「先生も二十代を謳歌してください。男友達といろいろなところに遊びに行ってください。恋愛が面倒だって思うのは、たぶん男性に関わるのが面倒だって思っている部分もあるんだと思うんです。男女問わず人に関わることは大切ですよ」

「はい」

 角田さんはファイルからなにか書類を取り出した。

「これは?」
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