副社長と恋のような恋を
「今、連載中の小説を電子書籍で販売することになったんです。途中から読み始めたから最初を読みたいという、読者さんから反響があって。その契約の書類です。連載終了後は紙媒体でも販売しますから」

「わかりました」

 書類に書かれている内容を確認してサインと印鑑を押した。角田さんに書類を渡すと、問題ありませんと言われる。

「それでは楽しいデートを!」

「デートじゃなくて遊びに行くんです」

「男女が遊びに行く。それを世の中ではデートって言うんですよ」

「友達ですから」

 頑なに否定する私を見て、角田さんはまあ、楽しんできてくださいんねと言って手を振ってくれた。

 角田さんに見送られながら、出版社をあとにした。

 副社長と待ち合わせをしているのは、この出版社の近くにある駅だった。ここの駅が副社長のマンションから近いらしい。

 駅へと歩いていると、後ろから小さなクラクションが鳴らされた。振り向くと濃紺の外車があった。そして運転席には副社長がいた。

 車は道に寄せて停車する。助手席側の窓が開き、乗ってと言われた。

 人通りの多い駅前。私は急いで助手席に乗り込んだ。

「よかった。ちょうどいい場所で君を見つけられて」

「ええ」

「じゃあ、行こうか」
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