副社長と恋のような恋を
 私はシートベルトを締めながら、はいと返事をした。車はゆっくりと動きだし、駅前を抜け大通りへと出た。

「どこに行くんですか?」

「普通にドライブ」

「え?」

「あれ、ドライブ嫌い?」

 運転する副社長の姿はドラマや映画のワンシーンのようだった。これだけのものを持っているなら、ちゃんとした彼女とドライブをすればいいのにと思ってしまう。

「いえ、意外だったんで」

「意外?」

「デートというか、デートごっこみたいなものだから、適当に食事して終わりかなと思っていたんで」

「デートごっこか。初々しい響きがあるのに、少し魅惑的な雰囲気もある表現だね。そういうこともお望みで?」

「からかわないでください。ごっこはごっこですよ。付き合ってない二人がデートという名のただのお出かけをしているんですから」

 副社長は特になにも言わず、ただ笑っていた。

 車は目的地のあるドライブをしているのか、副社長の土地勘だけで行き当たりばったりのドライブをしているのかはわからないが、副社長は迷いなく運転していた。

 窓の外は建物ばかりの風景から海沿いの風景へと変化していく。

「あのどこに向かっているんですか?」

「夕方のピクニックかな?」

「なんですか、それ?」
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