副社長と恋のような恋を
「母さん、もういいから。ほら、レジ、お客さんが」

 お母さんは失礼しますと言って、レジのほうへ歩いていった。

「母がすみません」

「いいよ。息子思いの素敵なお母さんじゃないか」

 副社長がそう言うと、山岸さんは少し赤くなりながらありがとうございますと言った。

「副社長も来たことですし、もう一度乾杯しましょう」

 森本さんのグラスを持つと、みんなグラスを持ち上げた。

「乾杯!」

 グラスがカチカチとぶつかる。

「副社長が来てくれるとは思いませんでした」と、隣に座る小野さんが言った。

「途中参加にはなっちゃったけれど、顔を出すことができてよかったよ」

 アルコールが入っているせいか、副社長がいても会議の時のような堅苦しい空気にはならず、副社長もこの空間に溶け込んでいた。

「あの、みなさんに質問していいですか?」

 村田先輩はそう言って話をつづけた。

「皆さんは今やっている職業は何番目になりたかった職業ですか? 私は二番目です」

「先輩、突然なんですか。あの、一番目はなんだったんですか?」

「お嫁さん」

 すると村田先輩はまた私に抱き着いて、いつか叶えてみせると意気込んだ。ノンアルコールビールなのに、なぜ酔っ払いっぽくなっているんだろう。とりあえず先輩の頭を撫でた。
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