副社長と恋のような恋を
「へえ、おもしろいですね。僕は五番目です。前の四つはなにか聞かないでください」

 小野さんはグラスに残ったビールを飲み干して、そう言った。なんだか闇を感じた。

 森田さんは八番目。わざわざ一位から八位まで全て発表していった。一番から順にサッカー選手、野球選手、水泳選手、パイロット、獣医、ブリーダー、飼育員、会社員。子供のころからスポーツと動物が好きだったからだそうだ。

「酒井さんは?」

 山岸さんに聞かれた。

「私は二番目です」

「一番は、私と同じ?」

 ずっと抱き着いていた先輩が離れた。そして私の顔をのぞき込んできた。

「違いますよ。一番は文章を書く仕事です」

「なに、ずるい。一番も二番も両方叶えてる。ずるい」と言いながら、また村田先輩が抱き着いてきた。

「文章を書く仕事もしているんですか?」

 森田さんが聞いてきた。

「はい。副業でライターを」

「へえ。ライターはどれくらいやっているんですか?」

「五年です」

「もしかして大学生のときから?」

「はい。ライターも続けたくて、副業可の企業を絞って就活して、ここにって感じですね」

 森田さんは若いのにしっかりしているなと感心していた。

 しっかりしているのではなくて、夢にしがみ付いて手を離すタイミングがわからなくなっているからだ。そして諦めが悪く、もう少しあがきたいと思っているから。
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