副社長と恋のような恋を
「山岸は何番目よ」と言いなが、村田先輩は私を抱き枕と勘違いしているんじゃないかというほど、しっかり抱き着いてくる。

 最初のうちは仲いいですね、なんて言われたけれど、もう誰も気にならないらしい。

 そして山岸さんが私のことを羨ましいそうに見てくるのも困る。代わりたいなら喜んで代わってあげたい。腕が動かしづらくて、食事がしにくい。

「山岸、話聞いてるの?」

「聞いてます。俺は一番です。高校のころから時計のデザインに関わる仕事に就きたかったので」

「へえ。あれ、副社長は?」

 副社長が座っていた席が空いていた。横に座る小野さんが仕事の電話みたいですと言った。

「副社長に何番目になりたかった仕事か聞けないね。私と山岸は仕事が残っているんで、ここで抜けますけど、みなさんはどうしますか?」

 テーブルは空のお皿だけになっている。これはもうお開きだろうと誰もが思う。

「今日はここでお開きですね」と森本さんが言った。

 みんな、それに同調し、自分の荷物をまとめ始めた。

「お開きかな?」と言いながら、副社長が席に座った。

「はい。明日も仕事ですから」

 私が答え、バッグからお財布を出した。

「会計はどうしましょうか」

 小野さんが聞くと、副社長がもう払ったからいいよと答えた。
< 65 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop