副社長と恋のような恋を
「ペアだからって、そんなにシンプルにしなくてもいいの。メンズは少しゴツイ感じにしても、レディースのほうと共通の部分があれば、デザインの一貫性も出るでしょ」

「村田さんはカップルの気持ちがわかっていません。ペアの時計をする、時計を送るっていうのは、心理学の観点から見ると、独占欲やずっと一緒にいたいという気持ちの表れ。つまり、結婚指輪や婚約指輪を送るのと同じようなものなんです。ジューンブライドに持って来い状態ですよ。それをちょっと同じデザインの部分を作ればいいなんてありえないです」

 二人して少し顔が赤くなっている。山岸さんの心理学を混ぜた意見は、村田先輩を黙らせてしまった。

 村田先輩の意見もわかる。ペアでも単体でも売るため、単体でも映えるデザインにしたいのだろう。だから少しインパクトを与えたいという気持ちはわかる。

 村山先輩は、でもと言って反論を始める。この二人の意見が合う日が来るのだろうか、と思ってしまうほどの白熱ぶりだ。

 一緒に時を刻む。ジューンブライド。恋人、カップル、夫婦。小説のネタを考えるときのように、必要なキーワードを書き出す。

 好きな人と一緒にいる時間。そう考えたとき、あのドライブシアターのことが浮かんだ。それと同時に副社長の手の温かさを思いだした。次に親睦会の日に頭を撫でられたことを思い出す。両方とも少しドキドキした。
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