副社長と恋のような恋を
「いただきます」

「どうぞ」

 副社長は私がシャーベットを食べるまで、自分は口にしなかった。ただ私が食べるのを見ていた。

「美味しい。私、シャンパン苦手なんですけど、これは美味しいです」

「そう。それはよかった」

 そう言って、副社長もシャーベットを口に運んだ。シャーベットを食べ終え、外を見ると港からは随分と離れ、景色が様変わりしていた。近くにあったはずのビル群は夜景に紛れ、コンテナ埠頭が見えた。

「夜景、本当にきれいですね」

「そうだね。こういう非現実的な時間ってたまにはいいね」

「はい。副社長は」

「副社長?」と、すかさず副社長は聞き返してきた。

「明人さんはクルージングディナーって、今まで何度か来たことはあるんですか?」

「仕事の関係で二回。あと友人の結婚式がクルージングウェディングで一回。今日で四回目だね」

「結構、乗ってますね」

「うん。でも、自分で予約したのは今日が初めてだからね」

 そんなことを言われても私はなにも言えない。これが恋人なら、すごく嬉しいと言えばいい。私は違う。

「ありがとうございます」

 副社長はどういたしましてと言って、窓の外に目をやった。

「あ、観覧車が見えるよ」

「本当だ。きれいですね。あの観覧車、乗ったことあります?」
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