副社長と恋のような恋を
「結果的にはそうですけど、私には確信があるんです。失恋してもしなくても、遅かれ早かれ、萩野明には出会っていたと思います」
「どうしてそう思うの?」
「人生で出会う人や触れるものって、生まれる前から決まっているんじゃないかって思うんです。ただ出会うものが決まっているだけで、出会うタイミングは本人次第なんです」
副社長はおもしろい考え方だねと言って、微笑んだ。
照明のせいなのか、テーブルに置かれている小さなライトのせいなのか、それとも少ししか飲んでいないワインのせいなのか、副社長の笑顔がキラキラして見える。
瞬きをして、視界を落ち着かせてから話を続けた。
「これは祖母の受け売りなんです。祖母は私が小説家になりたいって言ったら、麻衣ならなれるよって言ってくれたんです。そのとき、この時計をくれて」
私は左手首を少し振った。
「君くらいの若い人がその時計をしているのに驚いたんだ。作家だって聞いたとき、時計好きでオークションで買ったのかなと思っていたんだけど。そうか、おばあさんのだったのか」
「はい。作家になるためのお守り代わりに」
この腕時計を見るたび、おばあちゃんに作家になると伝えた時の気持ちを思い出す。そうやって少しでも初心を忘れないようにしている。それでも挫けたりめげたりするのだけれど。
「どうしてそう思うの?」
「人生で出会う人や触れるものって、生まれる前から決まっているんじゃないかって思うんです。ただ出会うものが決まっているだけで、出会うタイミングは本人次第なんです」
副社長はおもしろい考え方だねと言って、微笑んだ。
照明のせいなのか、テーブルに置かれている小さなライトのせいなのか、それとも少ししか飲んでいないワインのせいなのか、副社長の笑顔がキラキラして見える。
瞬きをして、視界を落ち着かせてから話を続けた。
「これは祖母の受け売りなんです。祖母は私が小説家になりたいって言ったら、麻衣ならなれるよって言ってくれたんです。そのとき、この時計をくれて」
私は左手首を少し振った。
「君くらいの若い人がその時計をしているのに驚いたんだ。作家だって聞いたとき、時計好きでオークションで買ったのかなと思っていたんだけど。そうか、おばあさんのだったのか」
「はい。作家になるためのお守り代わりに」
この腕時計を見るたび、おばあちゃんに作家になると伝えた時の気持ちを思い出す。そうやって少しでも初心を忘れないようにしている。それでも挫けたりめげたりするのだけれど。