副社長と恋のような恋を
「こんなセリフとワンセットじゃないと使えないですよ」

 指の動きが止まり、手がするっと離れていった。

「作家さんは厳しいな」

 副社長は苦笑いをして、白ワインを飲み干した。

 そしてメインの料理が運ばれてきた。魚料理のイセ海老とサーモンのソテー、ポルチーニのクリームソース添え。肉料理の牛肉のポワレと鶏肉のパイ包み焼き。どれもとても美味しかった。

「本日のデザート。ミルフィーユ、三種のアイス添えです」

 目の前にかわいらしいデザートが運ばれてきた。中央にあるミルフィーユの斜め上に真ん丸のアイス。アイスが風船のようで、ミルフィーユが空を飛んでいるように見えた。

「かわいい」

 ミルフィーユを口に入れる。甘いクリームの味が広がり、幸せな気持ちになる。

「甘いものを食べているとき、いい顔をするね」

 副社長が可笑しそうに言った。

「甘いものは私に幸せを運んできてくれるので」

「じゃあ、君は今幸せなんだ」

「はい。明人さんも食べてください。幸せになれますよ」

 副社長はアイスのほうをすくった。口に入れ、美味しいと呟いた。

「麻衣、君に一つ仕事を依頼したい。正確には都築麻衣に頼みたい仕事がある」

「なんですか、急に」
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