副社長と恋のような恋を
「arkのことだ。新作発売日の二週間前から特設サイトで小説を連載してほしい。発売する腕時計を題材にすること。そして恋愛小説であること。君がお世話になっている出版社が電子、書籍で発売したいという場合も対応できるようにする。どうかな?」

 予想外だった。自分はキャッチコピーを考えるだけだと思っていた。いや、違う。交換条件を提示されたとき、副社長は言った。都築先生に仕事を依頼しているんだ、と。この話はあのときから副社長の中にあったのかもしれない。

「これは私の一存では決められません。出版社のほうと話し合った上で、お答えするという形でいいですか?」

「もちろん。この話は俺からも出版社に打診をするから」

「わかりました」

 食後のコーヒーも飲み終わり、窓の外には港が見えてきた。

「そろそろ着きますね」

「ああ」

 クルーザーがゆっくりと停泊した。ウェイターの案内に従いながら下船する。

「さて、観覧車に行こうか」

「はい」

 ゆっくりと歩きながら観覧車へ向かう。さっきのクルーザーないで食事をしていた人の何組かが同じ方向に歩いていた。みんな考えることは一緒だなと思う。

「手でもつなぐ?」

 副社長が手を差し出した。

「いや、なんか恋人っぽくないですか?」
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