副社長と恋のような恋を
「なんですか」

「こうやって外で会うの、今日で何回目かな?」

「初めてバーで出会ったのも入れたら四回目ですね」

「そうだね」

 ゴンドラはもうそろそろで頂上だ。そのときだった。

 副社長の顔が近距離まで近づいてきた。目と鼻の先。言葉の通りの距離間。その距離は一瞬にしてゼロになる。そして一瞬にして元に戻った。すべてが一瞬のことだったのに、唇には感触と体温が残っていた。

「どうして?」

 口から出た言葉は思っていた以上に小さな声だった。

「嫌だったから。俺と一緒にいるのに、ほかの男の話が出たから」

「なにそれ」

「ほっとけ」

 副社長はゴンドラが下に着くまで外を見たままだった。

 わざと、嫉妬してくれたんですかと聞いても、知らんと言われ、大人気ないですよと言ったら、大人だと返された。

 こっちを向いてくれない副社長の横顔を眺めた。初めて会った日に見せてくれた小さな窓から見えるイルミネーション。あのときの横顔を思い出す。あのときは、二度と会わない人だと思っていた。それが半年後には観覧車に乗って、キスをしたのだ。

 あのときの私に、半年後そのイケメンとキスをすることになるよと言っても信じてくれないだろう。きっと、昨日の私に同じことを言っても信じない。

 キスで一喜一憂する年齢ではないけれど、嬉しいと思ってしまうのは、私の中にもまだ乙女な感情があるからなのだろうか。
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