副社長と恋のような恋を
五〇一号室の微熱
 午前中にあるはずだったark(アーク)新作企画デザイン会議が急遽、中止になった。今まで会議が中止になることは一度もなかった。副社長の予定の関係で中止になったのだろう。

 今日の会議でデザインが決まり、それに伴い使う素材について話し合い、都築麻衣の小説のことも話す予定だった。

 私は、午後は半休を取っていて、出版社でark用の小説のプロット関係の打ち合わせが入っていた。この前、角田さんと話したときは、この話に乗り気で、編集長を説得すると意気込んでいた。

 午前の仕事が終わり、いったん家に帰ろうとしたときだった。

 珍しく副社長から電話がかかってきた。普段はメールなのに。仕事のことかなと思い、電話に出た。

「もしもし」

 すると電話先から咳をしながら、麻衣というかすれた声が聞こえてきた。

 びっくりして副社長と呼びそうになり、慌てて明人さんと呼んだ。ここはまだ会社だった。

「風邪、引いたんですか?」

『ああ』

「病院は行きましたか?」

『午前中に』

 副社長は息をするたびに咳が出てしまうらしく、すごく苦しそうだった。

「これから出版社に行くので、その帰りお見舞いに行ってもいいですか?」

『来て、くれるのか?』

「はい。なにか必要なものはありますか?」
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