副社長と恋のような恋を
「わかりました。今度の会議で小説の方向性を決めるので、そのあとプロットを送りますね」

「はい。書籍として販売が決まっている以上、ただの販促用小説にはしないでください。時計と切り離しても、おもしろい小説にしてください」

「わかっています」

 角田さんはウェブの期間限定小説に関しての注意事項をまとめた資料を渡してくれた。

「都築先生は五年も作家さんをやっていますので、当たり前のことだと思いますが、この機会にご確認ください」

「はい。あの、このあと予定が入っていまして、これで失礼してもいいでしょうか?」

「はい。今日の要件は済みましたので」

「ありがとうございます」

 私は足早に出版社を後にした。地下鉄を乗り継いで、副社長のマンションへと向かった。

 マンションは高層ではなく、低層のマンションだった。外観がおしゃれな作りで、中に入ればエントランスもホテルのような作りだった。エレベータホールの横には、濃紺のソファとガラステーブルが置いてある。こんなのが置いてあるマンションを初めて見た。

 オートロックを解除してもらうため、部屋番号を押すと、どうぞという副社長のガラガラした声が聞こえた。自動ドアを抜け、エレベータで五階へと向かう。
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