副社長と恋のような恋を
 五〇一号室のインターフォンを押すと、ドアがゆっくり開く。顔色の悪い副社長が出てきた。

「来てくれてありがとう。入って」

「お邪魔します」

 私が中に入ると、スリッパを並べようとする副社長を止めた。

「ベッドで横になっていてください。私のことは気にしなくていいですから」

「悪い。部屋にあるものは好きに使っていいから」

「わかりました。キッチン、お借りしますね」

 副社長は片手を上げて、そのまま寝室のドアを閉めた。

 リビングのソファにバッグを置き、そこからエプロンを出した。ぐるっとリビングを見回すと、きれいに片付けられていた。まめに掃除をする人なのだろう。

 リビングには革張りの黒いソファに、ダークブラウンの木製のローテーブル。大きなテレビ。横にはたくさんのDVDが並んだラック。備え付けカウンターテーブルの下にはジャストサイズの本棚。たぶんオーダーメイドだろう。そこにはたくさんの文庫や単行本が並んでいる。

 リビングでなによりも目を引いたのが、小さめのイーゼルに載っているA4サイズくらいの絵画だった。色とりどりの花が繊細なタッチで描かれている。その絵を見ているとたくさんの花に埋もれている気持ちになる。きれいだけど少し孤独な気持ちにさせる絵だった。
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