副社長と恋のような恋を
 寝室に入り、ベッドの横に置いてあるサイドテーブルの上を片付け、トレーが置けるスペースを作る。そして、そこにトレーを載せた。

 副社長は起き上がり、着けていたマスクを外した。

 土鍋はお茶碗が蓋になっているタイプで、それにおかゆをすくう。

「熱いので気をつけてください」

 お茶碗を渡すと、副社長は少しずつおかゆを口に運んだ。

「美味しい」

「よかった。ゆっくり食べていてください。私、キッチンのほうにいますから」

「うん」

 辛そうだが、食事を摂ることができてよかったと一安心した。

 キッチンに戻り、調理器具を片付けながら夕飯のことを考えた。この様子だと、さすがにひとりにしておけない。別に予定もないし、副社長が迷惑でなければ夕方までいよう。

「麻衣」

 力のない声で呼ばれ、寝室に行くとおかゆを食べ終えたようだった。

「全部、食べられたんですね。薬は?」

「まだ」

 ミネラルウォーターと薬を手渡す。すると副社長は少しいやそうな顔をして、シートから錠剤を押し出した。薬、三錠を掌に載せ、口の中に放り込む。そして、水をぐびぐびと飲んだ。

「もしかして、薬苦手?」

「違う、錠剤が苦手なんだ」

「私と逆だ。私は粉薬が苦手です」

「薬なんて得意になったって、たいしていいこともないよ」
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