副社長と恋のような恋を
「わかった。リビングにある本とかテレビとか勝手に見ていいから。あと誰か来ても居留守使って。宅配便にも、知り合いにも、今は対応する気力ないから」

「はい」

 寝室を出て、片付けを済ませてから、リビングのソファに座った。病人がいるのにテレビを見るのはちょっとなと思い、バッグからノートパソコンを取り出した。

 ark用の小説のプロットを何本か考えよう。

 パソコンを開き、自分の考える世界観を広げていく。ジューンブライドをイメージするものだから、ケンカや性格の悪い女は出したくない。大人のおとぎ話のような、ちょっとファンタジックなものにしたい。

 いくつかの設定を考え、少し休憩を入れる。なんの気なしに本棚へ目をやった。

 副社長ってどんな本を読むんだろう。

 ずらっと並ぶ本に目を通す。時代物、ミステリー、純文学、経済書、哲学書、洋書と幅広いジャンルだった。その中に都築麻衣の本もあった。デビュー作からこの前発売された小説が並んでいる。

 一冊、手に取って開く。ページをめくるとなにかが落ちてきた。それは小さなメモだった。そこには走り書きで小説の感想が書かれていた。

“ナツオがもう一度、幽霊となって現れることがあれば、きっと母親に謝りにいくだろう。幽霊になってもすべての心残りをなくすことはできない。都築はどこまでも現実を書きたい人なのだろう”
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