副社長と恋のような恋を
 ほかの小説も開いてみる。どの小説にも感想を書いたメモが挟まっていた。

“自分を好きなれと人はよく言う。自分を好きにならなくては、人を好きにはなれない、と。都築は真っ向からそれを否定する。誰かに好きだと言ってもらえるから、好きになれることだってある。人を好きになる近道が自分を好きになること。近道が常に正しいとは限らない。都築が小説を書き続けている理由に思えた”

“今までとは違ったミステリータッチの小説。都築はちょっとイジワルな部分があるから、ミステリーは向いていると思う。また別の作品でもミステリーが読みたい。カヤが「嘘を握ったままでは幸せはつかめない」と言ったシーンは痺れた。高校生という思春期特有の溢れる自信と無鉄砲さが清々しいと思った”

 どの感想にも作家都築麻衣の本質を見抜く一文が入っていた。こんなふうに小説を読んでくれていたんだと思うと、嬉しくもあり恥ずかしくもあった。そして、これから書くarkの小説の感想は、副社長から直接聞きたいと思った。

 本を元通りにしまい、ほかの作家さんの本を開いてみる。数冊しか見ていないが、感想を書いたメモは出てこなかった。

 外が暗くなっているのに気がつき、パソコン画面の時計を見ると十九時を過ぎていた。そろそろ夕飯でも作ろうかと、立ち上がった時だった。施錠が外れる音がした。
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