背徳の王太子と密やかな蜜月
アロンソに挑発的な微笑みで見つめられ、イザベルはムッとしながらも意地になってしまう。
家族や親しい友人たちと交わすフランクなキスとは違う、それこそ“大人の”キスが恋人たちの間で交わされていることくらいは、彼女も知っている。しかし、知っているだけで、体験したことはない。それをアロンソに悟られるのは、なぜだか癪だった。
「……早く済ませてよね」
手慣れている大人の女を装って、そっけなく告げる。しかし実際は、アロンソの方が何枚も上手だった。
「馬鹿、早く済まないのが、大人のキスだ」
「なにそれ、そんなのずる……ン、ふぁ」
結局、アロンソが強引なキスで彼女の唇をこじ開けると、怯えたように奥に引っ込んでいた彼女の舌を自分のそれで絡め取り、唇の外へと引き出す。アロンソがその小さな舌先にちゅっと吸いつくようなキスをすると、そこから全身へと甘い痺れが伝染していくようだった。
(なにこれ……こんなキス、知らない……)
戸惑いつつも、アロンソのキスにすっかり懐柔されてしまったイザベルは、涙目になりながら息継ぎのタイミングを探すのに精いっぱい。
ようやく彼の唇が離れたそのとき、ふたりの間には透明な唾液の糸がつながっていて、イザベルはとてもはしたないことを犯してしまった気分になった。