背徳の王太子と密やかな蜜月
熱い吐息をこぼしてアロンソを睨みつけた彼女は、責めるように問いかける。
「なんで、キスなんか……っ」
しかしアロンソの方は、なんてことないような顔でため息をつくと、彼女に背を向けて少し離れた場所から岸に上がった。
その近くに立つ木の枝には彼の服が引っ掛けられていて、それを身に着けながら彼はイザベルの問いに答えた。
「言っただろ? お前がちゃんと大人の女として振る舞えるのか試したんだよ。お前だって、今はこんな暮らしをしていても、いつかは嫁ぐ日が来る。そうなったときに、夫になる奴の前でぶざまな振る舞いをしたくないだろ?」
もっともらしいことを並べたが、アロンソ自身も心は乱れていた。ほんのいたずら心で仕掛けたキスのはずが、止められなかったのはなぜだろう。その答えが、わからずに。
「嫁ぐ……?」
イザベルはその現実味のない言葉を、頭の中で反芻する。
今の自分は確かに、普通の女性なら結婚していてもおかしくない年齢だ。結婚して、愛した相手の子を産んで、母親になって……。まだ幼い頃には、そんな平和な理想を抱いたこともある。
けれど、今は――。
「……私が嫁ぐ日なんて、きっとこないわ」