背徳の王太子と密やかな蜜月
「ねえ、アロンソ」
「なんだ」
「もう一度……キスして」
イザベルは背伸びをして、アロンソの首に腕を回した。相変わらずぎこちない動作ではあったが、きっと彼女なりに勇気を出してくれたのだろうと思うと、アロンソの心は和んだ。
「一度でいいのか?」
「……意地悪なこと聞くのね」
わかっているくせに、女性にそんなこと言わせないで。内心そう呟いて目を逸らしたイザベルだが、アロンソは彼女を逃がさない。互いの額をコツンとくっつけ、瞳を覗きこみながら、彼女の答えをせかす。
「イザベル、返事は」
観念した彼女は、蚊の鳴くような声で白状した。
「……いや、よ」
その言葉が引き金になったかのように、美しい泉のほとりでふたたび唇を合わせた二人。今度はアロンソから求められるより先に、イザベルから濡れた舌を絡ませた。
好きだとか、愛しているとか、そんな言葉はない。
お互い、恋なのか、それともただの情なのかもわからないまま。けれど互いを必要としていることだけは、確かだった。