背徳の王太子と密やかな蜜月
やがて、ブルル、と馬が鼻を鳴らすのが聞こえて、敵はどうやら馬に乗っているらしいとわかった。
その敵は先ほどイザベルがキノコを採っていた辺りで静止すると、イザベルに向かって語り掛けてくる。
「……誰だか知らないが、ここに栽培している“闇夜の傘”はこの私のもの。奪おうなどという不届きな考えを持っているのなら、この場で今すぐ殺す」
冷徹で無感情な、若い男の声。どうやらこの一帯を埋め尽くすように生えているキノコは“闇夜の傘”という名で、この男のものらしい。
なんだか、初めてアロンソと会った時と似たような状況になってしまったと、イザベルは内心苦笑する。
(私ってば、食べ物を前にすると隙だらけになってしまうのかしら)
自らの食い意地を戒めつつ、イザベルは当時と同じように、木の陰に隠れたまま正直に謝罪した。
「……ごめんなさい。あなたのものだとは知らなかったの。もう、ここのキノコには手を出さないと、約束します」
「その声、女か……? 顔を見せろ」
なんで私の顔なんか、と思いつつも、逆らったら殺されそうな気がして、イザベルは従順に木の後ろから出て行く。
顔を上げた先には、予想通り馬に跨り、重厚な鎧を身に着けた騎士が、弓を構えて立ちはだかっていた。