背徳の王太子と密やかな蜜月
しかし、向けられた武器を恐怖に感じるより、イザベルはその騎士の顔によく知る人物の面影を感じ、思わず見入ってしまう。
(この人……)
冷たく彼女を見据える瞳は、アロンソのそれとよく似たヘーゼル色。そして、短髪のアロンソとは長さこそ違えど、肩に落ちるまっすぐな長髪は美しいダークブロンド。
(似てる……けど、偶然?)
呆然とするイザベルに対し、騎士の方も彼女の顔を見て驚いていた。構えていた弓を下ろすと怪訝そうに眉を顰め、半信半疑といった風に呟く。
「イザベル、王女……?」
初対面のはずの彼に名を言い当てられ、イザベルはますます混乱した。
「どうして、私の名を……」
「やはり……そうでしたか。生きておられたのですね。しかし、なぜこんな場所に」
イザベルはそこでようやくハッとした。騎士が纏っている鎧の肩当てに刻まれた紋章に、見覚えがあったからだ。
両脇には剣、そして中心に雄々しい獅子の横顔の描かれたその紋章は、彼女の過去に深くかかわる、シルバラーナ王国のもの。
その懐かしい紋章を目にした途端に、いつもは蓋をしている十三年前の悲しい記憶が、彼女の脳内を走馬灯のように駆け巡った。