背徳の王太子と密やかな蜜月
「私が生きていること、どうか誰にも話さないで頂けませんか? アレマンドが滅んでしまった今、私はもう王女なんかではありませんし、この森でつつましく暮らしているだけですから、どうか……」
イザベルは、自分の正体が暴露されることで、やっと手に入れたこの平穏な暮らしが脅かされるのが嫌だった。
特にアロンソと出会ってからは、話し相手がいるというのもあって毎日が楽しく、人の温かさというのを思い出していた。こんな時間がずっと続けばいいのにと、願ってしまうほどに。
しかし、自分と知り合ったせいで、彼に迷惑がかかるのは避けたい。もしも彼に何か危害が及ぶのなら、今この場で自分だけ殺された方がましだ。
(でも、できることなら。まだ、二人で生きていたい……)
最悪の事態を想定しつつも、希望も捨てられないイザベル。ぎゅっと握り合わせた両手に額をつけて、騎士が言葉を発するのを待つ。
すると、金属の鎧がぶつかり合う音とともに、騎士が馬から降りた気配がした。イザベルが目を開けると、彼は意外にも優しげな瞳で彼女を見つめていた。
「十三年前のこと、さぞお辛かったと思います。私も当時は子どもでしたので詳しいことは存じ上げませんが、王女様が行方不明になったと聞いた時には胸を痛めました。あれから、ずっとこの森で?」
さっきまでの冷徹な様子とのギャップに、イザベルは少々面喰ってしまう。一瞬罠だろうかと勘繰ったけれど、アロンソによく似たヘーゼルの瞳に見つめられていると、自然と彼女の警戒心は緩んでいった。