背徳の王太子と密やかな蜜月
「……ええ。おかげでたくましくなれました」
この騎士のことは信用してもよさそうだと判断し、イザベルは胸を張った。十三年前の傷はまだ癒えていないけれど、今は哀れまれるような生活を送っているわけではないと、主張するように。
「そのようですね。しかし、先ほどは無礼なことをして申し訳ありません。頬に、少しかすり傷が……」
騎士は心苦しそうに呟きながら、スッとグローブを取った手でイザベルの頬に触れる。
どうやら彼の放った矢に傷つけられてしまったようだが、アロンソ以外の男性にそんな風に触れられるのは初めてで、彼女は思わず頬を赤らめ身を引く。
「へ、平気よ、これくらい」
「しかし、跡が残っては大変です。きちんと手当てなさってくださいね?」
「ええ、わかった。あなたも、私のことは……」
「わかっています。誰にも口外しませんよ」
穏やかな微笑を浮かべた騎士に、イザベルは心からホッとして「ありがとう」と告げた。
すると、騎士が何か思い出したかのように身を屈め、地面にバラまかれたキノコのうちの一つを手に取り、彼女に差し出した。