背徳の王太子と密やかな蜜月
過保護な賊とキノコの甘い毒
「……不思議な人だったな」
その夜、スープの入った鍋をかき混ぜながら、イザベルは昼間出会ったシルバラーナの騎士を思い出して呟いた。
(キノコひとつで“殺す”だなんて物騒なことを言ったかと思えば、私がアレマンドの王女だとわかると、急に優しくなって……)
そこまで思うと、騎士の手が触れた頬の傷がちくっと痛むような気がした。
イザベルはそっと頬に手を当てて、彼は外見こそアロンソに似ていたけれど、中身は全然違うようだ、などと考える。
(“跡が残っては大変”だなんて、アロンソは絶対言わないものね……)
イザベルが、なんとなく残念そうにため息をついたその時。小屋の扉が開いて、アロンソが外から帰ってきた。イザベルは鍋に向かったまま顔だけを扉の方へ向ける。
アロンソは重そうに膨らんだ麻袋を肩に掛けていて、今日も“狩り”が成功したようだと彼女はホッとした。
「おかえりなさい」
「ただいま。……なんだかいい匂いがするな」
麻袋を床に置き、イザベルの背後に近づいたアロンソがくんくん鼻を鳴らす。