背徳の王太子と密やかな蜜月
「アロンソ?」
イザベルは、先ほどから思いつめたように黙り込んだままのアロンソの顔をそっとのぞき込んだ。
その心配そうな眼差しに、彼もやっと我に返って首を横に振った。
「……なんでもない。なぁ、それ味見させてくれよ」
気分を切り替えるように、彼女の背後にある鍋を指さすアロンソ。
イザベルは自信満々の笑みで頷いて、木製のレードルから小さな皿にスープを移し、二、三度息を吹きかけてから彼の手に渡す。
「熱いから気を付けてね。私もまだ飲んでないんだけど、香りからして最高よ」
「へえ、楽しみだ」
ず、と小さく音を立てて、アロンソがスープを啜った。イザベルは期待に目をキラキラさせて、彼の反応を窺う。
「どう? 美味しい?」
待ちきれずに問いかけたイザベルだが、アロンソはしばらく返事をしなかった。まさか、美味しくないのだろうか。
先に自分で味見をするべきだったかもしれないと、イザベルが後悔し始めたときだった。
「……イザベル」
低い声がかすかに彼女の名を呼び、イザベルは不安げな瞳でアロンソを見つめた。