背徳の王太子と密やかな蜜月


「……まだ寝てる、か」


静かに呟く、アロンソの声。イザベルは彼の前でどんな顔をしていいのかわからなくて、毛布の中で息をひそめた。

どくどくとうるさい心臓の音と、アロンソがこちらに近づいてくる足音だけが、やけに大きく聞こえる。

やがて、足音はベッドのそばでぴたりと止んだ。


「キノコの毒のせいとはいえ、乱暴を働いてすまない。でも、おそらく、本心が……いつもは隠している気持ちが、行動に出てしまっただけなんだ。……中途半端な気持ちで、お前に触れたわけじゃない」


イザベルは寝ているものだと思い込んでいる彼は、彼女が聞いていないからこそ、あっさりそんな告白をした。

毛布にくるまる彼女が、驚いて目を見開いているとも知らずに。


(あのキノコには、毒が……? でもそんなことより、今の言葉……)


「お前が好きだ、イザベル。お前の笑顔も、怒った顔も。さっきの、艶めかしい姿も……お前の全てが愛おしい」


感情が昂ったように、声を震わせながら話すアロンソ。

イザベルは完全に出て行くタイミングを見失い、黙ったまま彼の告白に耳を傾ける。その胸はさっきよりもさらに激しく高鳴っていた。


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