背徳の王太子と密やかな蜜月
「私……あなたに触れられるのが、嫌ではなかった」
「イザベル……」
「こんな気持ちになるのは、初恋以来よ。アロンソ、私も、あなたのこと――」
イザベルが、勇気を出して告白しようとしたその時。
ふいに、小屋の扉が二回ノックされた。アロンソはすぐさま扉の方を振り向き、背中にイザベルを庇いつつ言う。
「俺が様子を窺う。……その間に服を着ておくんだ。物音を立てるなよ」
「え、ええ、わかった」
甘い空気から一転、二人の間に緊張感が漂う。
アロンソはゆっくり扉の方まで歩みを進め、壁に立てかけてある愛用の斧を手にして、息を殺した。
(すぐに立ち去ってくれればいいのだが)
そう期待したものの、扉の向こうからこんな声が掛けられた。
「イザベル様はおられますか?」
なぜ、彼女の名を知っているのか。一瞬にして、心に黒い雲が広がった。アロンソは警戒心を強めつつ、何も答えずに相手の出方を窺う。
「我が国の王太子殿下が会いたがっているのです。いるのなら、出てきていただけないでしょうか」