背徳の王太子と密やかな蜜月
(王太子だと? いったいどこの国の者だろう。しかも、なぜこんな真夜中に? まさか、眠っている隙にさらおうとでも……)
アロンソが不吉な予感を抱いたその時、扉が突然がたがたと揺れ始めた。鍵はかけてあるが、どうやら、外から無理やりこじ開けようとしているようだ。
その者の正体はわからないが、イザベルの意思など関係なく彼女を連れて行くつもりらしい。
「そんなの、許せるものか……」
小さく呟いて、斧を握る手にぐっと力を込めたアロンソ。しかし、着替えを済ませ慌てて駆け寄ってきたイザベルが、彼を止めるようにその手に優しく触れた。
「この暗い森で、視界の悪い中戦うのは危険だわ。それよりも、闇に乗じてこっそり逃げましょう。窓から小屋の裏へ」
「……それもそうだな」
イザベルの冷静な判断に従い、二人はそれぞれの武器とアロンソが今日の狩りで得た“戦利品”のみを持って、入口の扉とちょうど反対側についている窓から小屋を脱出した。
そのまま小屋を離れる途中、ガン!と鈍い音が背後から聞こえた。おそらく、武器を使って扉を壊し始めたのだろう。
そうまでしてイザベルを連れ去ろうとする者の正体とは一体誰なのだろう。誰であろうと、ろくな王太子ではなさそうだが。