背徳の王太子と密やかな蜜月
そんなことを考えながら走り続ける途中、アロンソが身を隠すのにちょうどよさそうな洞穴を発見した。ふたりはそこでいったん休憩することにし、地面に腰を下ろした。
少し休んで乱れていた呼吸が整ってくると、アロンソはさっそく、気になっていた疑問をイザベルにぶつける。
「訪ねてきた男に心当たりは?」
「……いいえ、ないわ。だけど……」
そこまで言って、口をつぐむイザベル。彼女はしばらく悩んで、アロンソの方をちらりと見やってこう言った。
「怒らないで聞いてくれる?」
「なんだ?」
「昼間……ある男の人に会ったの。さっき小屋に来た人とは声が違うようだったけれど、私の名前を知っていた」
アロンソが目を見張る。
驚きと同時に、どうしてすぐに話してくれなかったのかと詰め寄りたくなったが、怖い思いをしたばかりの彼女に追い打ちをかけるのはよそうと思い直す。
「その二人は仲間だということか」
「わからないけど、私を探している人なんて、他にいるとは思えなくて」
「昼間会った男というのは、何者だ?」
「名前は知らないけれど……シルバラーナ王国の、身分の高そうな騎士で」
「シルバラーナだと?」