背徳の王太子と密やかな蜜月
「……イザベル。俺と一緒に、逃げよう」
それを言葉通りに受け取った彼女は、かすかに微笑んで言う。
「今だって、一緒に逃げているじゃない」
「……この森はもうダメだ。じきに大勢のシルバラーナ兵がやってくるだろう。お前のことを探している“王太子”は、欲しいものを得るためなら手段を選ばない男だ」
「あなたは知っているの? その人のこと」
「……知っている。しかしその理由は……悪いが、話したくないんだ」
そこまで話すと、悲痛な面持ちでうなだれてしまったアロンソ。
一体彼とシルバラーナ王国との間に何があったというのだろう。聞き出したい気持ちは山々だったが、イザベルは堪えた。
「わかった、もうこのことは聞かないわ。でも、一緒に逃げるのならひとつ条件があるの」
「条件……?」
イザベルは彼のもとへ歩み寄って正面に座り直すと、わずかに顔を上げたアロンソの手をぎゅっと握り、頼み込む。
「私のこと、お嫁さんにして」
アロンソにとってそれは思ってもみない頼みだった。あからさまに動揺し、澄んだライトブルーの瞳から逃れるように、視線を泳がせる。