背徳の王太子と密やかな蜜月
第二章
滅びた港町
夜明けとともに森を出て、まずは一番近い町で物資を調達しようということになった。なかでもイザベルは、とりわけ新しい服が欲しかった。
ときどき洗濯はしていても、二人の衣服はあまりにみすぼらしく、物乞いにでも間違われそうだ。豪華でなくていいから、汚れや破れた部分がないものが手に入れば、と心の中で思っていた。
「見えてきたな。あれが貿易のさかんな町、セルシアン――――」
説明しながら町の方を見ていたアロンソだが、その景色が近づくにつれその表情は曇っていった。
「アロンソ、どうしたの?」
「……町の様子がおかしい」
アロンソはそう呟いて、早足になる。彼の後を追って町のそばまでくると、イザベルにも彼の言った意味が分かった。
「人の気配がないわ……どうしたのかしら」
「それだけじゃない。そこかしこに、襲撃の後がある」
ふたりは周囲を警戒しながらも、ゆっくりと町に足を踏み入れた。
海に面し、かつては港町らしい活気に満ちていたセルシアン。海の向こうにある大陸から伝わった、異国情緒あふれる色彩豊かな街並みが、今では色褪せて寂しい景色となっていた。
建物はほとんど破壊され、崩れた石や煉瓦が足元に散らばっている。