背徳の王太子と密やかな蜜月
「これじゃ、服の調達は無理だな」
「そうね……でも、アロンソ、見て?」
イザベルが指さした先は、町の一番端に位置する建物。ほぼ破壊されつくしている町の中で、その建物だけが壊されることなくひっそりとたたずんでいる。
その理由は、建物のてっぺんにかかげられた十字架のせいだろうと、アロンソは見当をつけた。
「襲撃者も教会……神には手を出せなかったってわけか」
「……行きましょうアロンソ。あの教会なら、私たちにぴったりだと思わない?」
「ぴったり……? なんのことだ」
怪訝そうなアロンソを見て、イザベルは不服そうに頬を膨らませた。
(アロンソってば、約束したばかりのことを忘れているわね?)
彼女はひとつため息をつき、教会を見ながら告げた。
「盗賊だったふたりが結婚式を挙げるのに、あまり華々しい教会じゃ分不相応だと思っていたのよね。だから、あの寂しい教会くらいがちょうどいいって意味よ」
「結婚……そうか。そうだったな」
アロンソはそう言って、気まずそうにダークブロンドの短髪を撫でた。
イザベルとの約束を忘れていたわけじゃない。今までたったひとりで闇の中を生きてきたから、こうしたくすぐったい幸福には慣れていないのだ。