背徳の王太子と密やかな蜜月
大人のキスは甘く苦しく
翌朝。久々におとずれた満腹感のせいか、イザベルが目を覚ましたのは日が高く昇ってからのことだった。
寝ぼけ眼で部屋の中を見渡すと、ベッドを彼女に譲り、固い床に座ったままの体勢で眠っていたアロンソの姿はない。
(……出かけてるのかな)
イザベルはぼんやりと考えながら、小屋の扉を出た。不気味な闇が広がる夜とは違い、木漏れ日の降り注ぐ森は美しく、全身に力がみなぎる。
「今日も一日頑張りますか。……と。まずは顔を洗いたいな」
寝ている時には下ろしていた、腰ほどまであるブロンドを頭頂部でひとまとめにしながら、イザベルが呟く。小屋のそばに井戸はなく、どこかで水をくむ必要があるようだ。
彼女は小屋のそばに転がっていた手桶を持って、水辺を探すため、ひとり森を散策することにした。
迷ったら二度と出られない、などと旅人の間では恐れられているこの広い森だが、森を出る必要のないイザベルにとっては居心地のいい場所だった。鳥のさえずりは耳に心地よく、草木の香りは胸をスッとさせてくれる。
ときには凶暴なクマやガラの悪い山賊に遭遇することもあったが、戦闘を得意とするイザベルが傷を負ったことはなかった。