春はまだ青いか
春はまだ青いか
「本条君、お腹空いてる?」


 A市中央駅の改札で落ち合うと、妻の奈央が開口一番に訊いた。


「うん。すごく。昼、忙しくてあまり食べられなかった。夕食、何にする?」


 荷物を持ってやりながら、奈央に尋ねた。


「香奈はお寿司がいい。回ってる方」


 横から主張したのは、ランドセルを背負った娘。香奈は小さな頃から回転寿司がお気に入りだ。寿司だけでなく、唐揚げやプリンなど、好きな食べ物があるから。


「奈央は? それでいい?」


「うん」


「じゃあ、ホテルに荷物を置いてからにしよう。通り道にあるから」


 そう伝えると、奈央が笑った。


「何?」


「楽しいなと思って。平日に家族で夕食って滅多にないでしょ」


 駅から出ると、早春の冷たい風が頬を撫でた。日が落ちた直後で、町を包む空気は薄青かった。


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