春はまだ青いか
 週末をA市で一緒に過ごすことにしたのは、自分の思い付きだ。

 月末の週末は、A市に出張することになっている。始発で東京を出て、金・土に仕事をし、自宅に戻るのは土曜の夜。

 都市開発コンサルタントという仕事柄、普段から家を空けることが多く、奈央には苦労をかけている。だから、奈央と香奈が週末を利用してA市に来れば、仕事と家族サービスを兼ねられると思ったのだ。

 そういうわけで今日、奈央は香奈の下校時間に合わせて仕事を早く切り上げ、二人で小学校から空港に直行した。約四時間後、A市に家族三人が集まった。


「さっきお母さん、『本条君』って言ったよね。久しぶりに聞いた」

 香奈は、茶碗蒸しを一匙すくって口に入れた。この町の茶わん蒸しには栗の甘露煮が入っているのが定番で、ほのかな甘さが子供好みだ。週末の店内は、家族連れでにぎわっている。

「たまに昔の癖が出ちゃうのよね」

 奈央はホッキ貝の握りを取った。艶があって美味しそうだ。回転寿司とはいえ、漁港のあるこの町のネタは新鮮だ。

「お父さんは、お母さんのこと何て呼んでたの?」

「夏堀(かぼり)さん」




< 2 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop