フィンガーマン
その日はとても家に帰る気にはなれなかった。
館林と森に頼みこみ飲みに行くことに成功した。

『木村さん、飲みすぎですよ』
『んなこと言ったって、飲まずにやってられっかーチクショー』
『ダメだな、こりゃ』
『はぁ』
『なぁー、今日泊めてくれねーかな』
『わりぃ、うちは無理だわー』
『えー』
『彼女泊まりに来てんだよ』
『出た!年上彼女!』
『だから悪いな』
『くそ、リア充め。滅べ』
『そーだそーだ!』
『なー、もりぃ泊め…』
『嫌です』
『なんでだよ、お前彼女いないだろ!』
『彼女いないと泊めるの断っちゃいけないんですか』
『いや、そういうんじゃないけど』

森に謎のスイッチが入ってしまったようだ。

『分かりました。じゃあいます』
『え』
『まじかよ』
『これです』

携帯の待ち受け画面を見せられる。

『僕と結婚するそうです』

そこに写っていたのは長い黒髪をツインテールに縛ったあどけない笑顔が可愛らしい6歳くらいの女児だった。

『おい』
『なんです?』
『犯罪だぞ、目を覚ませ』
『どこの女児だよ』
『姪っ子です』
『あー、身内ね』
『良かった。赤の他人だったらどうしようかと思った』
『森ならやりかねんしな』
『どういう意味ですか』
『言葉通りの意味だよ』

なんだかんだ楽しく飲んでいたが終電も近くなってきたので解散となった。
館林は申し訳なさそうにそそくさと帰っていった。
俺は森にロックオンし、意地でも逃がすまいとガッチリ腕を掴んでいた。
< 10 / 50 >

この作品をシェア

pagetop