フィンガーマン
"フィンガーマン、こんばんわ"

謎の音は前回と同じだったらしい。
それに森は返事をした。

"こんばんは。君はだれ?"

なるべく端的に質問する。
モールス信号で長い文章をやり取りするのはお互いに大変だった。
それゆえの配慮だ。
少しして間を置いて応答があった。

"ナツミ"

思いがけず女性の名前になんとなく安堵する。
得体の知れない何かから女性で、普通の人間である可能性が出てきたからだ。

"いくつ?"
"18"

若い。
急に若い女の子と深夜にお喋りしているのかと思ったらソワソワした気持ちになったのは内緒だ。

"ここに住んでるの?"
"うん。あなたはいくつ?"

思いがけず質問が返ってきた。
若い女の子が自分に興味があるのか。

"26"

そう答えてから自分ではなく、木村さんのことを聞いているんじゃないかと思い慌てて訂正しようとする。

"超年上"

木村さんの方が年上だし、あえて言う必要はないだろう。

"ナツミは幽霊?"

意を決してついに確信に触れた。
少し迷ったがこれを聞かないことには恐怖は拭えない。
沈黙の中で自分のモールス信号と心臓の音がうるさかった。

"あなたこそ"

意表をつく答えだった。
どういうことだろうか。

"どういう意味?"
"さあ?"
"君は幽霊じゃない?"
"うん"
"ボクも幽霊じゃないよ"
"そうなんだ"

とりあえず安心する。
しかしこれ以上は何を聞いたらいいのか分からず、そろそろ切り上げることにした。

"今日は話せて良かった"
"私も"
"おやすみ"
"おやすみ"

森の話は以上だった。
ドヤ顔でごちゃごちゃ言うのでここまでたどり着くのにずいぶんと時間が掛かった。
外はすっかり明るくなり色々話そうにもそろそろ準備をしないとヤバイ。
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