フィンガーマン
ナツミと決めたデートコースを歩く。
まずは商店街にあるオシャレなカフェで1時間ランチを食べる。
俺はオムライスにした。
ナツミは何を選んだんだろうか。
きっと肉っぽいメニューでも選んでるんだろうな。
そんなことを考えていると一人で顔が緩んでしまう。

"ナツミ"

返事なんてくるはずもないのについ彼女の名前を呼んでしまう。

散歩しているときからこのカフェの前はよく通っていた。
一人では絶対に入ることは無かっただろう。
まだスーツなら多少は様にはなるが、休日の俺には敷居が高かった。
しかし、ナツミにランチはどうするか聞かれてつい格好つけてしまったのだ。

落ち着かない様子の俺を見られないで済んである意味対面していなくて良かったなとコーヒーをすすりながら物思いにふける。
そろそろ1時間過ぎたので会計を済ませカフェを出た。

このあとは夕焼けの森公園を散歩する約束になっている。
ゆったりとまるで隣に誰かいるかのようなテンポで歩みを進める。
いつもよりも風や日の光が気持ちいい気がした。

約束通り池の周りのベンチに座る。
そこでお喋りしようってナツミは言っていた。

"ナツミ、着いたか?"

指で何度か叩いてみる。
返事はない。

"ナツミ"

少し時間を置いて何度か呼び掛けてみる。
ついぞ返事が来ることはなかった。

ガックリしていると目の前が赤く光っていることに気がついた。

『え』

日が傾き最後の一仕事と言わんばかりに太陽が力強く赤い光をギラギラと輝かせていた。
その光が池に反射して水面が朱に染まっている。

ナツミも見ているだろうか。
彼女はどんな顔をしてこの池を眺めているんだろう。

腕時計を見るとそろそろここを離れる時間だった。
名残惜しげに立ち上がると歩き出した。

そのまま帰る予定だったが喉が乾いていた。
コンビニでビールでも買って帰ろうなんて考えながら図書館の前を通りすぎた。
図書館を見ると反射的に冷水機を思い出してしまい本能がここに入りたいと訴えかけてきた。

仕方ないな。
自動ドアを通り抜けると涼しい風に包まれる。
そのまま一直線に冷水機に向かい喉を潤した。
またこいつにお世話になってしまった。
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