フィンガーマン
朝7時に目覚ましが鳴る。
また目覚ましの解除を忘れていたらしい。
休日の早起きはなんだかちょっと悔しい気持ちになる。

心の中で悪態をつきながらも、二度寝するぞとすぐに意識を沈めていく。

妙な夢を見ている。

少女というよりは女性、しかし大人というほどでもない。
いかにも一人暮らしの大学生っていう感じだろうか。
肩までの黒髪にラフな部屋着姿で眼鏡を掛けている。

可愛らしいインテリアに囲まれた部屋で生活する若い女の子の部屋を覗き見しているというのはなんともいえない気持ちになる。

あれ、この間取り…
この夢を見初めてから感じていた違和感の正体に気がつく。
壁の染みやキッチン、その他諸々のものが俺の暮らすこの部屋と完全に一致していた。

これだけ可愛い部屋を想像できるのになぜわざわざこの部屋をベースにしてしまったのか我が夢ながら不思議でならない。

この夢には俺の姿は無かった。
まるでテレビを見ているかのような視点で俺は彼女を見ていた。

女の子は部屋をウロウロしている。
何か探し物でもしているのだろうか。

しかし初めて見るはずの彼女に何か既視感を覚えていた。
クローゼット、棚、トイレ、お風呂場……
探し物にしては……
そうか、これは俺のルーティーンだ。

いつも夜な夜な何かの気配を感じたときに見回りをするときと同じ場所を探しているんだ。

そして、俺とは決定的に違いがあった。
彼女は笑顔だった。
笑いながら楽しそうにウロウロしている。
鬼ごっこでもして遊んでいるかのような。

ふいに何か影が横切った気がした。
すると彼女もそれに気がついたようで影を追いかける。

そして家具に触れながらゆっくり歩いていく。

『フィンガーマン』
テーブルの上のなにかを握りながら彼女が呟いたようだった。

彼女の動きが昨夜の自分と重なってみえて、それでいて決定的に何かが違う。
急激に寒気を感じゾクっとする。

なんなんだこの夢。

そしてなにより一番妙なところはこれが夢だとはっきり自覚しているということ。
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