フィンガーマン
8月7日この日は平日だが毎年会社が休みになる。
通称社長の日と呼ばれる我が社にしかない特殊な祝日だ。
というのもただの社長の誕生日なのだが。
まだ会社が小さかった頃から自分の誕生日はどうしても休日にしたかった社長のわがままで毎年必ずしっかり休みになる。

平日ということもあり菜摘も家にはおらず時間をもて余して、あてもなく外に出る。

菜摘はどこに消えてしまったんだろう。
一人で寂しくないかな。

菜摘のことを考えていたからかいつの間にかあのカフェの前に来てしまっていた。
やっぱり入店するのに腰が引けてしまい店頭に佇む。

『あら、夕焼け食堂つぶれちゃったの!?』

ご婦人がカフェの前で大きな声を出した。
目があってしまい頭を下げる。
向こうも気まずかったのかニコニコしながら頭を下げた。
そもそもカフェに行くつもりもなかったので近くの牛丼屋さんに入ることにした。

相変わらず落ち着く空間だ。
ささっと牛丼を食べすぐに店を出る。
入りやすい空間ではあるが長居したい場所でもない。

結局牛丼を食べただけでコンビニでビールを買って帰ってきた。
昼間っから飲むビールは最高だなー。
ぼんやりハートマークの左側に座りながらビールを煽る。

ここに座ると目の前にカレンダーが見える。
菜摘がいなくなるのは2012年8月21日火曜日か。

『あれ』

今年、2018年も8月21日は火曜日なのか。

『ん?』

なにか妙な引っ掛かりがあった。
俺は何か、大切なことを見落としているんじゃないか。
何かが分かりそうで分からない。
モヤモヤしてもどかしかった。

"ただいま"

菜摘が帰ってきたようだった。

"おかえり"

いつもと逆だなって思ってたら同じことを菜摘に言われた。

"今日は早かったんだね"

"今日は休みだからな"

"平日なのに?"

"特殊な祝日なんだ"

"なんの日?"

"社長の日"

"なにそれ"

"ただの社長の誕生日"

"面白い会社だね"

"司馬遼太郎と同じ誕生日なんだって"

"へー、8月7日生まれなんだ"

『あれ』

今の中がクリアになって周りがスローモーションになったような妙な感覚に見舞われた。

"今って8月7日火曜日だよな?"

"そうだよ"

"何年?"

"え?2012年だけど"

"ちょっと出掛けてくる"

"え?ちょっと!"

俺は簡単に荷物をまとめると家を飛び出した。
まずは図書館に向かい必要なことを調べる。

『やっぱり……!』
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