フィンガーマン
柿崎を帰して空振りに落胆しながらコーヒーを飲み干した。

『菜摘の交遊関係はもう何も出なさそうですか?』
『そうだな、これで手詰まりだ』
『そっか……』
『こうなったら強行突破しますか?』

グッタリしていた俺と館林は森の言葉に身を乗り出す。

『どういうことだよ』
『杉田の家に押し掛けるんです』
『は?』
『家に菜摘の身に付けていた物とかがあったら言い逃れは出来ないじゃないですか』
『なるほどな』
『杉田の家は分かってます』
『おお』
『今日は杉田は会社に籠りっぱなしで何時になるか分からないので明日出直しましょう』
『分かった』

俺たちは会計を済ませ、明日に備えて早々に解散した。
家に帰ると"おかえり"と聞こえてきた。
菜摘も家にいるようだった。

"ただいま"

"どこ行ってたの?"

"柿崎に会ってた"

"里沙ちゃんに?どうして?"

"今日菜摘のデザイン画と衣装を盗んでるはずだから"

"は?"

しまった。迂闊すぎた。
何も考えずに言ってしまったがこんな軽率に言って良いことでは無かった。
仮にも友人が自分の物を盗むなんでショッキングすぎるにもほどがある。
しかし、もう言ってしまったものは仕方がない。

"違うんだ。柿崎の好きな人知ってるか?"

"梶くんのこと?"

"そうたぶん梶くん!"

"なに?"

"梶くんと付き合ってるのか?"

"誰が?"

"菜摘"

"付き合ってないけど"

やっぱり誤解だったか。
菜摘のモールス頻度から考えて、とても男と付き合っているようには思えなかったのだ。

"菜摘と梶くんが付き合ってるって噂になってる"

"は?なにそれ"

"柿崎が言ってた"

"嘘でしょ"

"誤解をといておいた方がいい"

"そうだね"

"そもそもなんでそんな噂になったか心当たりは?"

"ないこともない"

"なんだ?"

"二人で買い物に行った"

"なんで?"

"女子へのプレゼントを選ぶの手伝ってくれって頼まれたから"

"それを誰かに見られて噂になったのか"

"たぶんね。学校の近くで買い物したから"

これで誤解がとければ21日学校に行く必要がなくなるはずだ。
しかし学校にいる方が安全なのか家にいる方が安全なのか判断は出来ていない。

"21日の予定は変わりないか"

菜摘の返事が遅いような、いつもより少し間が長い気がした。

"そうだね"

"どうかしたか?"

"ううん。どうもしない。ねえ"

"なんだ?"

"殺人事件の詳細が知りたい"

"どうして?"

"私も関わってるかもしれないんでしょ?"

"それは分からないけど"
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